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徳島地方裁判所 平成10年(行ク)3号 決定 1998年9月14日

徳島県麻植郡<以下略>

申立人

右申立人代理人

徳島県麻植郡<以下略>

被申立人

川島町議会

右代表者議長

右被申立人代理人

主文

一  被申立人が平成一〇年一月一九日申立人に対してなした川島町議会議員の除名処分の効力は徳島地方裁判所平成一〇年(行ウ)第一〇号町議会議員除名処分取消請求事件の本案判決確定に至るまでこれを停止する。

二  申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一  当事者の主張

申立の趣旨及び理由については、別紙申立人作成の平成一〇年七月三一日付け町議会議員除名処分執行停止申立書、同年九月四日付け反論書及び同月一〇日付け意見書、これに対する被申立人の反論については、別紙被申立人作成の平成一〇年八月二五日付け意見書、同月三一日付け、同年九月四日付け及び同月一一日付け意見補充書のとおりである。

(本件における争点)

1  申立の利益の有無

2  「回復の困難な損害を避けるための緊急の必要がある」(行政事件訴訟法二五条二項)といえるのかどうか、「本案について理由がないとみえる」(同条三項)のかどうか。

二  当裁判所の判断

1  争点1について

(一)  この点に関する被申立人の主張を要約すると、次のとおりである。

(1) 執行停止決定の効力は、将来に向かってのみ生ずるものであって、既往にはさかのぼらないのであり、右停止がなされる前に既に後続処分がなされている場合、右後続処分の効力にはなんら影響を及ぼさない。本件では、申立人が除名処分を受け、これを前提として、申立外Aが公職選挙法一一二条五項に定めるいわゆる繰上補充によって議員資格を既に取得しているのであるから、本件除名処分について執行停止決定がなされたところで、申立人は議員資格を回復しえない。それ故、本件申立ては申立の利益を欠くというべきである。

(2) また、地方公共団体の議会の議員の当選の効力については、公職選挙法二〇六条、二〇七条に規定するいわゆる当選争訟によってのみ争い得るものであり、申立外Aの当選の効力に関する異議の申出、審査の申立及び訴訟の提起は法定の期間内に行われておらず、右期間の経過によって申立外Aの当選が確定したのであるから、本件除名処分について執行停止決定がなされたところで、申立人は議員資格を回復できず、この点からしても本件申立ては申立の利益を欠くものである。

(二)  そこで、検討するに、執行停止は、取消訴訟の提起に伴う執行不停止の原則のもと、私人の権利利益の実質的保障、救済を意図した制度であることからすると、町議会議員に対する除名処分の効力が停止されることによって、右議員は議員たる地位を回復し、処分の効力の停止が、処分によって生じる効力を一時停止し、将来に向かって処分がなかったに等しい状態を作り出すものであり、これにより停止決定がなされるまでに行われた後続処分がなんら影響を受けることはなく、さらに、その後の繰上補充によって他の当選者が存在するとしても、その結論を異にするものではない。

また、公職選挙法は当選の効力に関する異議の申出、審査の申立及び訴訟の提起の期間を法定しており(同法二〇六条、二〇七条)、右期間の経過によって私人の側から処分の効力を裁判上争うことができなくなるが、これはあくまで私人の側からみた訴訟要件の問題であって、執行停止決定の趣旨を尊重して関係行政庁が自らなした処分を自ら変更する可能性がないとはいえないので、本件申立てに申立の利益は認められる。

2  争点2について

(一)  地方議会の議員は、住民によって選出され、地方公共団体の意思決定過程に参加、関与するという重責を担うものであり、川島町議会議員の任期は平成一二年二月までであるところ、申立人が当選人と確定したのは平成九年七月六日であり、それまで議員としての活動が不可能であったことや、本件除名処分後の平成一〇年度三月議会、六月議会においても議員としての活動ができず、九月議会も同年九月一〇日に開会し、同月二二日に閉会することが予定されていることからすると、議員報酬を除名処分後受領できずにいることをも併せかんがみ、「回復の困難な損害を避けるための緊急の必要がある」と認められる。

被申立人は、執行停止制度で救済されるべき利益は個人の利益でなければならず、いわゆる公益や第三者の損害は行政事件訴訟法二五条二項にいう「損害」には含まれず、それ故に、本件においては「回復の困難な損害を避けるための緊急の必要がある」との要件は認められないと主張するが、議員は住民の意思を議会に反映させようとするとともに、自らの政治的信条をも実現しようとするものであることからすると、議員個人としての利益をも有するというべきである。よって、右主張は採用できない。

(二)  また、地方議会における議員に対する懲罰の効力については、議会に自律権が認められるとはいえ、司法審査が全く及ばないものではなく、少なくとも除名処分のような議員たる地位を失わしめる重大な処分について、懲罰権の濫用や逸脱が認められる場合には、司法審査の対象となる。

そして、疎明資料から認められる除名処分の原因となつた申立人の発言内容をみるに、確かに不適切な表現が使用されているとの感は否めないとしても、これをもって除名処分を受けるほどの非違行為にあたるとまでは即断することはできない。

それ故、「本案について理由がないとみえる」ともいえない。

三  結論

以上のように、本件申立てには理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本久 裁判官 大西嘉彦 裁判官 齊藤顕)

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